中小企業の情報セキュリティ対策、現状と課題
近年、サイバー攻撃は高度化・巧妙化し、その影響は大企業だけでなく中小企業にも広がっています。特にサプライチェーンを狙った攻撃では、取引先のセキュリティの弱点を突破口にするケースが増加しており、「自社は小規模だから狙われない」という考えは通用しません。
2025年5月にIPA(情報処理推進機構)が公表した「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査報告書」は、中小企業の現状と課題を浮き彫りにしました。本記事では、その重要ポイントを解説します。

多くの企業が基本対策は実施、それでも残る大きな穴
調査によると、多くの中小企業でウイルス対策ソフトの導入やOS・ソフトウェアの更新といった基本的なセキュリティ対策は行われています。しかし、標的型攻撃やランサムウェアへの対応は十分ではなく、「社員教育」「組織的な体制構築」「取引先へのセキュリティ要求」などの高度な取り組みは遅れが目立ちます。
特に顕著なのが教育不足です。標的型メールや不注意による情報漏えいは従業員のリテラシー次第で防げるケースが多いものの、社員研修や演習を実施している企業は半数未満。小規模企業ほどこの傾向は強く、攻撃者にとって格好の標的となるリスクがあります。
経営層の関与不足と予算の壁
経営課題の中で「サイバーリスク対策」の優先順位は低く、収益性向上や人材確保に比べて後回しにされがちです。その背景には、経営層がセキュリティを直接的な売上向上と結びつけていないことや、「投資対効果が見えにくい」という認識があります。
また、予算不足も深刻です。年間の情報セキュリティ投資額が50万円未満の企業が3割以上を占め、投資ゼロという企業も存在します。人材面ではセキュリティ担当者を置く企業は少なく、外部リソース活用も十分に進んでいません。
サイバー被害の実態と損害規模
「被害経験がある」と回答した中小企業は約1割。被害内容としては、ランサムウェア、マルウェア、ビジネスメール詐欺が多く、業種や規模を問わず発生しています。損害額は50万円未満が最多ですが、1000万円以上の被害も珍しくありません。平均売上高が2億円前後の中小企業にとって、数千万円規模の損失は経営存続を脅かす深刻な打撃です。実際、報告されていない倒産事例もあると指摘されています。
サプライチェーンリスクの軽視
取引先や委託先のセキュリティ対策を確認していない企業は4割以上。BCP(事業継続計画)において情報セキュリティリスクを想定していない企業も多く、サプライチェーン全体の防御力低下を招いています。
一方、「SECURITY ACTION」宣言やセキュリティ認証の取得は取引先からの信頼性向上につながるものの、導入率はまだ低水準。宣言後の具体的な改善行動も十分とは言えません。
今後求められるアプローチ
社員教育の強化
標的型メール訓練やフィッシング対策教育は低コストで効果的。外部サービスの活用も有効です。
外部専門家との連携
人材不足を補うため、セキュリティお助け隊やコンサルティングサービスを活用し、体制構築や運用を支援してもらうことが有効です。
経営層の意識改革
サイバーセキュリティを経営リスクとして捉え、投資判断に組み込むことが必要です。攻撃による損害額の事例を知ることで、予防投資の重要性が理解しやすくなります。
まとめ
中小企業の多くが基本的なセキュリティ対策を講じている一方で、教育・体制・予算面の課題が根深く残っていることが明らかになりました。サイバー攻撃は企業規模を問わず発生し、被害は事業継続を脅かすレベルに達することがあります。今後は、経営層の理解とリーダーシップのもと、全社的かつ継続的なセキュリティ対策が不可欠です。攻撃を「他人事」ではなく「自分事」として捉え、平時から備えを強化することが、企業の未来を守る最良の投資となります。