中小企業のデジタル活用の課題
中小企業のデジタル活用状況
新型コロナウイルス感染症の流行により、中小企業のデジタル化に対する意識が高まりました。次のグラフは、感染症流行前後のデジタル化に対する優先度の変化についてのアンケート調査結果です。
デジタル化について「事業方針上の優先度が高い・やや高い」企業は、感染症流行前には45.6%であったのに対して、感染症流行後には61.8%と相当数の増加が見られました。働き方改革や業務の効率化の取り組みに加え、テレワークの推進など事業継続力強化の観点でデジタル化に取り組む企業が多く存在していることが伺えます。
次の図は、2021年の商工中金による「中小企業のIT導入・活用状況に関する調査」の結果から、中小企業のIT利用状況をまとめたものです。
新型コロナの流行前後でのIT導入の実施項目を見ると、「テレワーク・Web会議」がコロナの影響で実施した企業が多いことがわかります。一方、「顧客管理」や「財務会計」に関しては、コロナの影響にかかわらず一定数の企業がIT導入を実施していることから、中小企業の業務効率化のニーズが高い分野と見てとれます。
IT導入・活用を実施しない/検討しない理由を見ると「人材の不足」(43.8%)、「社内体制や仕組みが不十分」(33.8%)、投資費用(31.3%)の順に高いことがわかります。
2017年の調査との比較においては、2021年では「費用対効果」、「効果が不明」、「セキュリティ」、「経営者のITへの理解不足」等の項目での回答比率が大幅に低下しており、中小企業におけるIT導入による効果についての認識やセキュリティ面での理解の広がりが伺えます。
これらのことから、中小企業では、人材および投資費用を抑えつつ、IT活用の仕組み作りが比較的容易に実現できるITツールの利用が課題と考えます。 このような課題を解決するITツールとして、クラウドサービスが挙げられます。
次に、クラウドサービスの利用状況について見てみます。
クラウドサービスの利用状況
クラウドサービス利用環境の充実により、大企業においては大多数の企業がクラウドサービスを利用している状況にあります。資本金5〜10億円未満の企業においても91.2%と5年前の調査から大幅な伸びを示しており、クラウドサービスが確実に浸透していることがわかります。
一方、中小企業においては、資本金1,000万円以上では約60〜80%の企業で利用されていますが、1,000万円未満の企業では43.7%に留まっており、5年前と比較しても利用が進んでいないことがわかります。規模の小さい企業でのクラウドサービス利用に課題があることが見て取れます。
クラウドサービスを利用しない理由を見ると、「必要がない」「情報漏えいなどセキュリティに不安がある」「クラウドの導入に伴う既存システムの改修コストが大きい」等が上位に挙げられています。
次に、クラウドサービスの利用にあたり、そのメリット(利点)と課題について整理しておきます。
クラウドサービスの利点
- 設備の保有、技術者常駐が不要
- 導入コストが低い(月額数千円〜)▶ 失敗しても撤退可能
- データ連携により日々の決算が可能になる ▶ タイムリーな経営判断に役立つ
- 企業間連携が容易
クラウド型システムでは、企業自らIT設備を保有する必要がなく、また、高度な知見を有する必要がありません。適用業務については、一般的な企業活動に必要な業務の種類とパターンは網羅されており、短期間で運用が開始できるサービスが多いことも特徴です。初期導入コストも少なく(ゼロの場合もある)、中小企業による導入が比較的容易な仕組みです。
クラウドサービスの課題
- 生産性向上に役立つのか、よくわからない
- セキュリティ、事業継続性の考え方がわからない
- 規模が小さい事業者もあり、販路拡大に不安あり
クラウドサービス利用には課題もありますが、メリットが大きいので、IT導入にあたっては、クラウドの利用を検討することをお薦めします。
デジタル活用の課題
中小企業のデジタル活用の状況を模式的に捉えると、概ね下図の様に表すことができ、それぞれのレイヤー毎に課題が存在していると考えられます。
デジタル活用途上企業
デジタル活用途上企業では、IT・IoT等を活用して業務・現場・経営の「見える化」から始めるのが効果的と言えます。経験と勘に頼った経営から、数字に基づいた判断と改善の積み重ねによる経営へ変えていくことが目的です。
この場合、改善を伴わない間の費用は極力低く抑えるのが得策ですので、コスト面のハードルが低いクラウドサービスや企業規模と目的に合ったデジタル技術の活用が欠かせません。しかしながら、初めてこうしたサービスを導入する企業にとっては、依然として導入そのもののハードルが高いことも想定されるため、支援組織とIT事業者が連携して効果的な支援を行うことが必要と考えます。
デジタル活用積極企業
デジタル活用積極企業では、個別業務単位での改善を積み重ね、最終的に全体改善を図ることが重要です。デジタル活用に当たっては、経営者の気づきの機会提供、外部専門家の活用、業務に精通した橋渡しができる人材の不足が課題となっています。
また、さらなる生産性の向上のためには、自社内業務のみならず取引先企業を含めたサプライチェーンでの業務効率化が必要です。そのために、企業間の受発注業務のデジタル化(EDI連携)、クラウドでの情報共有や共通プラットフォームの活用が課題と考えられます。